社長メッセージ
社長よりクリタグループの中長期的な方向性についてご説明します。
企業理念への想いを力に、社会との共通価値を創造し企業価値向上に繋げます

不確実な時代こそ、企業理念を拠り所として持続的な成長を目指す
クリタグループは、創業以来75年以上にわたり、お客様が抱える課題に真摯に向き合い、水のあらゆる機能や可能性を追求し、最適なソリューションを創出・提供していくことで、産業や社会とともに成長を続けてきました。この取り組みを積み重ねることで、多様な産業や社会との現場接点を広げるとともに、水処理に関する情報・データ、経験である「水に関する知」を蓄積し、水処理企業としての競争優位性を確立させています。この歩みは、企業理念「“水”を究め、自然と人間が調和した豊かな環境を創造する」への深い共感に根ざした、従業員一人ひとりの姿勢や行動によって導かれたものであり、この想いこそが、私たちクリタグループの原動力であると考えています。
私は社長として、企業理念の実現に向けて、「世界中のお客様により広く、より高い価値を提供し、より良い世界の実現の一助になること。その結果としてクリタグループが5年10年と力強く成長し続け、企業価値を高めていくこと」を使命としています。そのために、私自らが積極的に現場に足を運び、ステークホルダーとの対話を通じて変化や動きを敏感に捉え、中長期視点で取り組むべき課題を見極めることが大切だと考えています。
足元では、米国政権の交代に伴う関税政策に加えて、環境規制の緩和によって広がる環境意識の揺らぎ、さらには地政学的なリスクの影響など、私たちを取り巻く事業環境は急激に変化しています。しかし、先行きの不透明感が一層強まっている中でも、私たちが目指すものに変わりはありません。私たちの事業領域の「水」は、人間の生活や経済活動において必要不可欠であり、この有限な資源を、いかに有効に活用していくかが、社会課題として重要性を増しています。このような中で、私たちのお客様も、経済価値の追求だけでなく、直面する社会課題の解決に真剣に取り組まれています。水処理はもともと高い社会価値を生み出す事業ですが、私たちは、現状にとどまることを良しとしていません。「水」には、気候変動や生物多様性など、幅広い社会課題の解決に貢献する可能性を秘めており、水資源の問題からエネルギーや資源循環へとスコープを広げ、「水に関する知」を駆使して、新たな価値を生み出し、クリタグループの持続的な成長と社会価値の創出の双方の共通価値の創造に挑戦していきます。
サステナビリティを経営の中核に据えて挑むPSV-27計画
企業理念の実現に向けて、2030年のあるべき姿が、企業ビジョン「持続可能な社会の実現に貢献する『水の新たな価値』の開拓者」です。そして、ビジョン実現のための重要課題が「クリタグループのマテリアリティ」であり、サステナビリティに関するグローバルな課題から絞り込まれた、3つの共通価値テーマと5つの基礎テーマを設定しています。2023年4月、中期経営計画「Pioneering Shared Value 2027(PSV-27計画)」のスタートにあたり、私たちは、サステナビリティを「自然環境や社会システムの中に企業活動を位置づけ、それらとの相互影響を踏まえて持続的な成長を図ること」と定義し、経営の中核に据えることで、サステナビリティ経営に本気で取り組むことを宣言しました。そして、マテリアリティへの取り組みをPSV-27計画の戦略に有機的に組み込み、ビジョン達成に向けて私たちがどのように、経済価値と社会価値を創出・提供していくかの道筋を「Value Pioneering Path」として示しています。この価値開拓の道筋に沿って、より広く、より高い価値をお客様に提供できるよう、従業員を後押しするのみならず、私自身が率先してお客様との関係性を構築していくことにも努めています。
PSV-27計画は、従来のクリタグループの強みである、お客様が抱える課題を起点としたトランスフォーメーションの実現と、長期的な成長に向けた新たな挑戦である、社会課題を起点としたイノベーションの創出の2つの競争戦略が軸となっています。お客様や社会にとって、より高く、新しい価値となる独創性の高いソリューションを創出・提供し、企業価値の向上を目指します。お客様の課題やニーズを的確に捉えるため、組織は「電子」と「一般水処理」の市場セグメント別に整備しています。
電子セグメントは、半導体を中心にグローバルに成長が見込まれる電子産業のお客様を対象としています。電子産業は、生産開始のタイミングや操業開始後の歩留まりが収益に大きく影響することから、設備投資の検討から実行までのスピードとその品質が重要な価値となります。これに対応すべく、私たちはグループ全体の電子産業向けの営業・生産・開発の機能を1つの組織に集約させて、グローバルに価値を提供するための基盤を整え、お客様の多様な課題やニーズに的確に応えていきます。また、継続的な関係構築に繋がり、より高い価値を提供する上でカギとなるサービス事業の拡大を進めることで、お客様にとって必要不可欠なパートナーとなることを目指します。
一般水処理セグメントは、電子産業以外の幅広い産業のお客様を対象とします。地政学リスクや関税影響を背景としたコスト意識の高まりが見られるほか、気候変動問題をはじめとする社会課題の解決に向けて、企業が環境や社会へのインパクトを重視した経営に注力されており、お客様のニーズは産業や地域によって多種多様です。このことから、地域軸と産業軸に特化した組織体制を構築し、最適なソリューションを届けていきます。その中心となるのがCSV(Creating Shared Value)ビジネスです。CSVビジネスは、社会価値が高い水処理に係る事業の中でも、従来に比べ節水、GHG排出削減、廃棄物の資源化または資源投入量の削減に大きく貢献する製品、技術、ビジネスモデルの総称です。CSVビジネスは、単に高い社会価値を創出するだけでなく、これに付随してコストの削減や生産効率の向上にも寄与することから、お客様に高い経済価値をもたらします。
PSV-27計画の進捗と、計画達成に資する3つの勝ち筋
PSV-27計画の経営目標は、売上高4,700億円、事業利益率16%、ROE12%以上、ROIC10%以上に加えて、CSVビジネスの拡大を通じたお客様への節水やGHG排出削減、資源化・資源投入削減に対する貢献をはじめとする非財務指標を掲げています。PSV-27計画がスタートして2年が経過し、私たちは計画達成に向けて着実な成長を遂げることができました。
しかし、事業環境が当初の想定から変化したことにより、2つの課題が明らかになりました。
まず、サービス事業拡大の柱である継続契約型サービスの収益貢献タイミングの変化です。お客様の工場内に自社資産の水処理設備を設置し、お客様が求める質と量の水を安定供給する継続契約型サービスは、環境負荷低減に寄与するモデルなどサービスの多様化を図り、これまでに事業成長と顧客層の拡大を実現しました。しかし、足元では、政府からの半導体メーカーへの補助金拠出や、人手不足を背景としたお客様の投資時期の遅延など、収益貢献時期に遅れが出ています。既存のお客様の後続案件だけでも中長期的な視点での成長は見えていますが、PSV-27計画残り3年での収益拡大は想定より緩やかとなります。
続いて、精密洗浄事業の回復の遅れです。北米では、主要なお客様の工場増設計画に合わせて洗浄工場の新設投資を行っていましたが、特定のお客様の事業の影響を受け、投資回収の見通しが立たなくなったことから、事業規模を縮小して再構築を図る判断をしました。これにより、有形固定資産およびのれんの減損損失を計上しましたが、スリム化によりリソースの再配分が可能となりました。水処理装置案件の獲得をきっかけとした新規のお客様との接点構築も進んでおり、マネジメントの強化を図りながら、以前の高収益体質を取り戻すことに注力します。課題もある中で、誇るべき成果も得られました。それは、PSV-27計画達成に繋がる3つの勝ち筋を見出すことができたことです。

勝ち筋1 グループの強みを駆使した電子産業向けビジネスの基盤構築の進展
半導体市場は、製品需要や地政学リスクの影響を受けて日々環境が変化していますが、その中で半導体製造企業の売上上位企業であるグローバルアカウントは積極的な投資を継続しています。
私たちはお客様のグローバルな事業展開に対応すべく、これまで手薄だった欧米地域での事業体制の整備を進めるとともに、「EP+モジュール」のモデルを導入しエンジニアリング力の強化を図りました。本モデルは、モジュール化した水処理装置をスキッドにして納品することで、建設工程を簡素化し、お客様のコスト削減や省スペース化、工期短縮といったメリットを創出します。この結果として、グローバルアカウントからの案件の獲得に繋がり、私たちの電子産業向けビジネスを名実ともにグローバルに拡大させることができました。
また、半導体製造プロセスの変化が、私たちのビジネスに追い風になると考えています。半導体の性能向上に向けて、お客様は半導体の多層・3D構造化を進めており、これにより水処理における排水処理・排水回収の比率が相対的に大きくなることが予想されます。私たちは、この分野で豊富な知見と実績に裏付けられた高い技術を保有しています。この強みの発揮により足元での案件受注にも繋がっており、今後さらなる事業拡大の呼び水となることを期待しています。
勝ち筋2 CSVビジネスの拡大
これまでの取り組みを通じて、CSVビジネスは、社会価値のみならず、幅広い課題解決によってお客様にとっての経済価値を創出する力が高いことを実感しています。社会課題となっているエネルギーコストの高騰がGHG排出削減に寄与するモデルの需要を後押しし、熱効率の改善やAI・センシング技術を活用した運転最適化などのソリューションが高く評価されており、CSVビジネスによるGHG排出削減目標も、前倒しで実現できる見込みとなっています。CSVビジネスは、様々な地域や産業のお客様から価値が受け入れられていますが、インドやアフリカなどの新興国・地域では、ドアオープナーとしての役割も果たしています。また、収益性においても既存事業と比較して高水準であることからも、PSV-27計画の経営指標である事業利益率の向上への貢献が大いに期待できるものとなっています。
勝ち筋3 社会価値を起点とした新規事業の創出・展開の進展
顧客価値を起点に既存事業の改善を重ねていくことは成長していくうえで必須ですが、それだけでは成長の幅に限界があります。クリタグループの歴史を振り返ると、超純水製造技術の導入や土壌浄化分野への進出など、新たな分野への挑戦が成長に繋がってきました。さらなる飛躍に向けて、私たちは社会価値を起点としたイノベーションとして、新規事業創出に挑戦しています。その取り組みの一例が、PFAS(有機フッ素化合物)への取り組みです。PFASは人体への影響の懸念や市場性の高さから、企業理念の実現に通じる取り組むべきテーマとして捉え、私たちは2023年にPFAS対策室を立ち上げました。これまでに欧州・米国・日本において分析・コンサルティング・除去装置の提供などの実績を積み重ねています。現在は環境や健康に関心の高いお客様が先行して取り組まれている印象がありますが、今後社会全体に普及していくことが考えられ、収益の柱の一つとして成長する期待が高まってきています。
なお、これらの勝ち筋の発揮においては、グループ内のリソースのみならず、M&Aの活用も検討していきます。これまで、M&Aを通じてグローバルな事業基盤の拡大や技術・ノウハウを獲得し、CSVビジネスのグローバル拡大や、欧米での電子産業基盤の確立、DXの進展などの成果に繋げることができました。一方で、M&Aから業績貢献までに時間がかかっていることが課題です。資本効率を意識した経営を行ううえでは、株主還元との投資効果の比較や、FCFコンバージョンレートの事前分析など、投資の質を高めることが必要と考えています。さらに、PMI(Post-Merger Integration)の実行力を強化することで、より効果的なM&Aを実現していきます。
電子セグメントでは、サービス事業の起点となる顧客接点をグローバルに拡大
事業環境の変化やこれらの勝ち筋を踏まえて、PSV-27計画達成に向けた今後強化していく戦略を改めて設定し、各セグメント別の目標も見直しています。
電子セグメントでは、引き続き多様なサービス事業の拡大を戦略の軸として推進します。そのために、特にこの3年間で重点的に取り組むのは、サービス事業の起点となる顧客接点をグローバルに獲得していくことです。エンジニアリング力と技術力を駆使して、グローバルアカウントをはじめとするお客様との接点をさらに強化して、水処理装置案件を継続して獲得し、多様なサービス事業へと繋げていくことで、売上高2,300億円、事業利益率18%を目指します。
>お客様から幅広く案件を獲得していくためには、質と量を提供できるエンジニアリング力が必要となります。欧米地域では、獲得したEP+モジュールによる大型装置案件の対応を着実に完遂させ、これに続くサービスのバックアップ体制を整えていきます。既存のお客様の後続案件の獲得や新規のお客様との接点構築を進めることで、サービス事業の拡大を目指します。さらには、欧米でのEP+モジュールの適用実績を活かして、今後成長が期待されるインドへの事業進出を検討していきます。また、日本を含むアジア地域では、AIによる設計の自動化や需要予測に基づく調達期間短縮など、フロントローディングの考え方を取り入れた生産プロセス変革の取り組みにより、生産リードタイムの短縮を図ります。
私たちが排水処理・排水回収分野に強みを持つことは先ほどお話ししたとおりです。グローバルアカウントのお客様をはじめ半導体産業はGreen Manufacturing*への取り組みを志向されており、私たちの強みを発揮しながらお客様の経済価値向上や環境負荷低減を両立するソリューションを提供し、産業・社会の発展に貢献します。
- Green Manufacturing 環境への負荷を最小限に抑えながら製品を製造する取り組み。特に近年、気候変動や資源枯渇への懸念が高まる中で、半導体産業を中心とする多くの分野で注目されている。

一般水処理セグメントではCSVビジネスが収益性向上を牽引
これまで順調に成長を遂げている一般水処理セグメントでは、当初の事業利益率目標を引き上げ、売上高2,400億円、事業利益率14%を目指します。
取り組みの代表となるCSVビジネスでは、さらなる拡大に向けて「量」「質」「マーケティング」の3つのポイントを軸に取り組みます。まず「量」については、CSVビジネスのモデル数を拡充させ、売上拡大のベースとなるSOM(Serviceable Obtainable Market:ビジネス展開が可能な市場規模)を積み上げていきます。次に「質」の確保です。CSVビジネスに認定されているモデルであっても、事業環境の変化によりその価値が陳腐化する可能性もあるため、各モデルが期待される社会価値や収益性を創出しているか審査し、品質の維持・向上に努めています。加えて、センシングやIoTを駆使したデジタル技術を活用してモデルの品質向上にも取り組んでいます。最後に「マーケティング」です。グループ共通の情報基盤を活用して、成功事例の水平展開やお客様の適切な接点へのアプローチの推進により、各地域・各産業のお客様の課題への最適なソリューション提案を実現し、SOMの獲得率を高めて売り上げ拡大に繋げます。これら3つの視点を統合的に管理・推進する組織として、2025年4月には「バリュー・プロバイディング戦略本部」を新設しています。
新規事業の創出・展開では、PFASへの取り組みを、PFASの分析・除去に加え、有害物質の無害化まで含めたワンストップソリューションへと進化させます。PSV-27計画中に業績貢献できる規模にまで拡大させ、本分野におけるトップランナーとしてのポジションを築いていく考えです。このほか、中長期的な視点でクリタグループの中核となるような新たな事業モデルの構築にも取り組みます。

ステークホルダーとともに歩む、企業価値向上への道筋
お客様や社会に提供する価値を生み出すのは、「人」です。私は従業員との交流を通じて、企業理念が一人ひとりの言動に根付いていることを実感しています。社会に貢献し、その結果として自身も成長したいという強い想いを持つ人材が集まっていることこそが、クリタグループの最大の強みです。この想いを具現化して成果に繋げ、社会からの評価に結びつけることが、経営者の役割だと考えます。そのために、「Value Pioneering Path」と「大切にする価値観」の理解浸透を図ることで、従業員が社会や会社への貢献に誇りをもって働ける環境を整えていくとともに、積極的に従業員とコミュニケーションを図ることで、エンゲージメントを高めていきます。
社長就任以降、私は、お客様、協力会社や株主・投資家の皆様、そして従業員と様々なステークホルダーと対話を続けてきました。その中で、私たちの企業理念は従業員のみならず、多くの方々に共感いただけていると強く感じています。一方で、そこへ向かう取り組みへの期待としての企業価値としては、まだ十分な評価が得られていないと感じています。
企業価値を株式の時価総額と捉えると、私は、クリタグループは1兆円を超えるポテンシャルがあると考えています。足元の状況からは距離がありますが、私たちが社会に提供している価値の高さを踏まえれば、十分に実現可能な水準だと私は確信しています。もちろん、一足飛びに到達できるものではありません。一歩ずつ着実にステップを踏みながら実現させていきます。
まずは、資本市場をはじめとするステークホルダーの皆様から、クリタグループの将来成長に対する信頼を得ることが重要です。現在の株価水準は、PSV-27計画達成に対する懐疑的な見方の表れだと受け止めています。先ほどご説明した「3つの勝ち筋」は、私たちの自信の根拠です。これらを言語化し、取り組みと成果を明確に示すことで、皆様との対話を通じていただいた評価や意見を経営戦略に反映させ、経営の高度化を図っていきます。次のステップは、クリタグループの電子産業向けビジネスにおける優位性を広く認識していただくことです。私たちの技術が今後のお客様のビジョンに対しどのように評価され、貢献しているかを、実績をもって丁寧に説明し、信頼の獲得に繋げていきたいと考えています。
私はPSV-27計画の経営指標において、ROEを最も重視しています。収益性とEPS成長率、そして成長投資と株主還元の両立に強くこだわり、TSR(Total Shareholder Return:株主総利回り)の改善を通じて、企業価値を向上させていきます。
私たちがこれから挑む未来の道のりは、決して平坦ではありません。しかし、クリタグループには、世界をより良く変える力があると信じています。ステークホルダーの皆様には、企業ビジョン、そして企業理念の実現に向けて邁進する私たちに、今後とも変わらぬご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
2025年7月
代表執行役社長 江尻 裕彦
- このページは、統合レポート2025の社長メッセージを掲載しています。